走る仕事

大人になってくるとだんだんと走ることはなくなってくる。走るのはやっぱり体に負担がかかって、疲れてしまうから。僕はまだ若い方だけど、きっともっと年寄りになってきたら、走らないようにするために工夫をしていくんだろうな。電車に乗るときでも,約束の場所にいくときでもなるべくあせらなくてすむように時間に余裕をもって出発したりする。

子供とか若い時みたいに、なにもないんだけど唐突に気持ちが高ぶって走り出したり、どうしても待ちきれなくて走っていくことも多かったけど、最近ではそれも少なくなってきてた。ふやふやしていた体や心がしっかりとした地面にくっついて落ち着きたがっているのかもしれない。

でも、大人になると走らなくちゃいけない仕事もあるみたいだ。マラソン選手は間違いなくいっぱい走っているし、佐川急便のお兄ちゃんだって毎日走っているはずだ。

僕のいつも使う電車の駅の一つ前の駅は、電車の車庫がある駅で、その駅止まりの電車がある。電車が車庫に入ってしまうため、夜にその駅止まりの電車が止まると、駅員さんが電車の前と後ろから走ってきて、車内に人や荷物が残っていないかどうか急いでチェックする。

駅員さんが走っていくので、動物の悲しい性でそういうものは追いかけたくなってくる。なので、僕は走って追いかけてみたら、簡単に追い抜かしてしまった。以前にも、追いかけたことがあって、その時は追いつけなかった記憶があったから、あれ、と思った。今日の人は足が遅かったのか、と。だから、やたら速かった人は何で速かったんだろう。と思い出していたら、走行ルートに違いがあった。電車は一両が一つの箱になっていて,それがいくつも連結されている。遅かった駅員さんは、車両と車両を結ぶ重いドア(しかも二つある)をいちいち開けて、次の車両に向かっていた。速かった駅員さんは、開きっぱなしになっている車両の横のドアから一旦ホームに出た後再び次の電車車両に乗る。止まらない分、こっちの方が速い。

速い駅員さんの方が、早く点検が終わるから、電車も早く車庫にしまうことが出来て、仕事にも余裕が出来てくる。でも、車両の間の部分に人や物があった場合には見逃すんじゃないだろうか。そこに酔った人がいたら深夜に真っ暗な車庫の中で目が覚めて、笑い話みたいな状態になってしまいそうだ。まあ、そういう事はまれなんだろうけど。

社会では効率のいい方が求められるんだろう。それでも、遅い駅員さんみたいなひとがいると、思いもしないようなアクシデントを未然に防げるんじゃないかなあ、とか思った。そういう人も、作業が遅くてもやっぱり一人くらいは必要なんじゃないだろうか。

まあそんなことはどうにしろ、駅員でないひとが、駅のホームで突然走り出すのはたぶんいいことがないので、止めた方がいい。子供じゃないんだから。