夏→秋

あの時に拾った木の実はどうしたっけ。

そろそろ秋かな、いやまだかな。九月の初めに、夏から秋に変わる瞬間を、自分なりに見つけてみようとした。立秋? いあ、暦じゃなくて自分の感覚として。
季節には敏感じゃないから、秋の兆候といっても多くは気がつけない。それでも観察していると、鈴虫の出す音が夜に聞こえてきて、木が様子が寂しげになり、一枚着る服が増えて、夜が寒くなってきた。それでも、蝉は鳴いているし、昼は暑いし、まだ夏だよなー。だんだんと夏が消えていって、秋に変わっていくものだなあ、季節が切り替わる瞬間なんてないよな、と感じていた。

そんなとき、たぶん九月十日かその少し後くらいだろうか、大学に行く途中にある戸山公園の入り口を過ぎたところで、ふと地面を見るとドングリのような形の木の実が落ちていた。周りには落ち葉が散らばっていた。
木の実を拾い、眺めていると、昔の思い出が一瞬胸をかすめた気がした。こんな光景と行動が記憶のどこかに触れたようだ。郷愁のようでもあった。

そうして木の実をポケットにしまい、顔を上げると、もう公園はすっかり秋になっていた。