こねこ電車

電車に乗ると子猫が三匹、端っこの座席で身を寄せ合っていた。横にはキャリーバックがあって中にさらに二匹。その隣には持ち主らしきおじさんがキャリーバッグに手を掛けて座っている。
電車に猫? いやそれはいいけど、なんでキャリーバッグからだすんだ? そこは人が座るところだぞ。猫が丸くなるところじゃない。毛が席に付いてしまうではないか。ケツの穴を席でこすっていたらどうする。人が座るよりも猫の解放感の方が優先されるというのだろうか。
おじさんは足を組んでヨーロッパのサッカーチームのTシャツをきて悠然と座っている。なんともふてぶてしい。しかしそんなおじさんには関係がなく、子猫たちはなんともかわいいくてずっと見ていたくなる。子猫特有のふわふわのきれないな毛。互いのお腹や足をなめ合いながらけだるげに仲良く寝そべっている。カレンダーの写真みたいな光景だ。子猫の魔力は恐ろしい。しかも三匹。写真を撮ってもいいですか? さわってもいいですか? と聞いてみたくなるもののそんなことはしない。そもそも僕はそんなこと恥ずかしくて言えないし、おじさんの行為に荷担するわけにも行かない。猫はキャリーバッグに入れておかなくちゃだめだ。しかしそう当たり前のことを思ったものの、座席で乗客の目を楽しませるのもまあ悪くはないのではないかとも思った。かわいければ猫にだって席に座って見るのも一興かもしれない。
右から寄ってきた女性が、猫を近くで見ようと首を伸ばした。きっと顔がやわらかくなる、と思ったらすぐに首を引っ込めて少し離れた。その理由は、わかる。臭いのだ。臭う。友達の家にあったあまり汚い水槽の匂いだ。それが猫たちから発生している。うんことか尿とかの匂いが混じっているのだろう。動物が好きな人ならなれているのかもしれないが少なくとも僕はあまり嗅ぎたい匂いじゃない。
そうしてくさいくさいと思っていると猫があまりかわいく見えなくなり、おじさんがだんだん憎らしくなってきた。そもそもこんなに立っている人がいる中で堂々と一人分の席を猫で占有する精神が気にくわない。いやキャリーバッグも横に置いてるから合計三席を占有している。なんと。それくらい足下に置こうよ。きっと切実に座りたい人がいるよ。猫が嫌いな人がいるよ。というかかけらでも人を気にしたらそれくらいきがつくでしょう、そんなに猫をかわいがっているのか見せびらかしたいのか。そう思って少し離れて立つ周りの人を見ると、僕と同じようなことを考えている気がしてきた。みんな思っている。猫はかわいい。しかし臭い。そうしてなんで人様の席に猫が座るんだ!

子猫らを乗せた電車は高田馬場駅に到着し、開いたドアから僕はホームへと降りた。

楽しめたからおじさんには感謝してる。ちょっとだけ。