ヘヴン

# 今週のお題として

大学の隣にある戸山公園では子供のダンスチームが踊っていた。戸山公園野外コンサート、と渡されたチラシに書いてあった。チラシに次に戸山高校ブラスバンド部が演奏するとあり、それを聞こうと研究室に一度戻り、時間に合わせてまた公園に向かった。自動ドアを出ると少し予定が早まったのかすでにブラスバンド部が演奏していた。演奏している高校生達はおそろいの緑のTシャツを着て、強い日差しの下で汗を流していた。聞いている観客は日差しが強いので木の木陰や草地の上で耳を傾けている。僕はコンビニで飲み物を買い、演奏しているところから少し離れた遊歩道の脇に腰掛け観客になった。僕の後方にいるホームレス二人も。木陰で立つ人も。左手にいるカップルも。たぶん走り回っている子供達も。悪意や駆け引きはここにはなく、ただブラスバンドの陽気な音楽が流れていた。腰掛けた位置からは演奏している人も聞いている人も見渡せた。純真と無垢な心だけがここにあり、流れる音と公園と太陽が暖かな空間を作っていた。僕はふと澄んだ気持になり、ああ、今この瞬間この場所はヘヴンなのだと感じだ。ヘヴンは一瞬ここに現れ、なごりおしそうに少しの間だけとどまっている。僕はその端っこにいた。僕が座って眺める人々はみな幸いに包まれていた。地面も遊具も草も木も。すべてが。
演奏が終わった。音が止み、大きな声がマイクから響き渡った時にはいつもの昼下がりの公園だった。主催者の挨拶などが続く中、観客は散り始めた。僕も立ち上がり、研究室へと戻った。コンビニで買ったジュースのパックをゴミ箱に捨て席に座りパソコンに向かった。もう公園で手に顎を乗せながらぼうっとしていた感覚はうすれ記憶だけが残っていた。